2025年の秋、BTSが完全体として戻ってきた熱狂の中で、ひとつの女性グループが静かに、しかし確実に世界チャートの扉をこじ開けた。LE SSERAFIM。2022年5月のデビューから約3年半、幾度もの批判と論争を経て辿り着いた場所が、「SPAGHETTI」というポップソングだった。K-POPの女性グループがこれほどまでに世界を席巻した楽曲は、2025年の中でも指折りに数えられる。
j-hopeとの邂逅——あの「BTS」が女性グループに手を差し伸べた瞬間
2025年10月24日にリリースされた「SPAGHETTI(feat. j-hope of BTS)」は、いくつかの”初めて”を塗り替えた楽曲だ。まず、j-hopeにとってこれがK-POPガールズグループとの初コラボレーションだった。BTS歴代最多週1位の実績を持つアーティストが、女性グループを選んだ。しかもその相手がLE SSERAFIMだったことに、ファンたちは複雑な感情を抱きながらも耳を傾けることになった。
サウンドは軽やかなポップ。重厚なEDMを前面に出した前作群とは打って変わった方向性で、イントロから会話するような掛け合いが続く。「意外と気軽に聴けてしまう」——そのとっつきやすさが、SPAGHETTIの最大の武器だった。Spotifyで最初の1週間に記録したストリーム数は1,684万回。11日連続で1日200万回以上の再生を維持し、Billboard Hot 100ではグループ自己最高位となる50位でデビューした。Billboard Globalでは21位に到達し、2026年3月時点で20週間以上にわたってチャートインし続けた——これは2025年にリリースされた第4世代K-POPガールズグループの楽曲の中で最長記録だ。
批判の三部作を越えた先
LE SSERAFIMが2024年から2025年初頭にかけてリリースした「EASY」「CRAZY」「HOT」の三作品は、K-POPファンの間で批判が相次いだ時期の作品だ。各楽曲のティザー映像や演出が物議を醸し、インターネット上では毎リリースごとに否定的な声が上がった。特に「EASY」前後のライブパフォーマンスをめぐる議論は根強く、グループの実力や方向性に疑問を呈する声も少なくなかった。
しかしグループは解散も露骨な路線転換も選ばなかった。むしろSPAGHETTIで、より素顔に近い「ポップ」に戻ってきた。批判を受け止めながら、ファンと正面から向き合い、ふわっとした親しみやすさを前に出した。この「引き算の勇気」こそが、SPAGHETTIの持つ意味だと思う。
日本人メンバー2人が持つ、戦略以上の重み
LE SSERAFIMには日本人メンバーが2人いる。宮脇咲良(サクラ)とカズハ(本名:中村かずは)だ。この2人の存在は、K-POP市場での「日本向けプロモーション」という戦略的側面を超えた意味を持っている。
宮脇咲良——アイドルとして積み上げた15年
1998年3月19日生まれ、現在28歳。HKT48の第1期生として2011年に芸能界に入り、AKB48との兼任も経験。2018年には韓国のオーディション番組「PRODUCE 48」に出演し、IZ*ONEのメンバーとして活躍した後、2021年6月にグループを卒業してK-POP界に戻ってきた。アイドルとして15年近いキャリアを持つ彼女がLE SSERAFIMに加入した意味は、「既存ファンベースの取り込み」という安易な説明には収まりきらない。むしろ、日本の芸能システムとK-POPの狭間で何度もアイデンティティを問い直してきた経験が、グループに独自の深みを与えている。
カズハ——バレリーナが辿り着いたステージ
2003年8月9日生まれ、大阪府出身。3歳からバレエを始め、ボリショイ・バレエ・アカデミーやロイヤル・バレエ・スクールなど複数の名門校で研鑽を積んだ後、オランダのダッチ・ナショナル・バレエ・アカデミーに在籍中にK-POPの世界へ転向した。BLACKPINKに影響を受けてアイドルを志し、HYBEの創業者バン・シヒョクがオランダまで直接スカウトに赴いたというエピソードは有名だ。バレエで培った体幹と身体表現は、ダンスパフォーマンスの質として結実している。舞台俳優的な佇まいと、ポップな親しみやすさが共存するLE SSERAFIMのビジュアルの中心に、カズハはいる。
K-POPの多様化という文脈で読む
SOURCE MUSICはHYBEが2019年に買収した独立レーベルで、HYBEとして初めて送り出した女性グループがLE SSERAFIMだった(2022年5月2日デビュー)。メジャーレーベルの後ろ盾を持ちながら、あえてポップ路線を選び、j-hopeとコラボし、チャートを愚直に積み上げる。これはK-POPのガールズグループが「勝つ」ための方程式が多様化していることの、ひとつの証拠だ。BTSという巨人が戻ってきた夏に、女性グループが世界チャートで存在感を示せたという事実は、2025年のK-POP史に刻まれる出来事だと思う。
まとめ
- 「SPAGHETTI」は2025年10月24日リリース。j-hope(BTS)との初コラボで、Billboard Hot 100の自己最高位50位を記録
- Spotify初週1,684万ストリーム、Billboard Global 20週以上連続チャートインという第4世代K-POPガールズ最長記録を樹立
- 批判が続いた前3作(EASY/CRAZY/HOT)を経てポップ路線に回帰。引き算の勇気でファンと向き合ったSPAGHETTIは、グループの転換点を示す
- 日本人メンバー宮脇咲良(28歳・アイドル歴15年)とカズハ(22歳・元バレリーナ)の存在がグループの個性の核
- HYBEの女性グループ第1号として、K-POPの多様化を体現する5人組
LE SSERAFIMの物語はまだ終わっていない。むしろSPAGHETTIは、次の章への入り口だ。まだ聴いたことがない人は、SpotifyやYouTube Musicで「SPAGHETTI」を再生してみてほしい。軽やかなイントロが流れ始めたとき、彼女たちが3年半をかけて辿り着いた「今」を、耳で感じることができる。

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