Adoに「アイ・アイ・ア」を提供したボカロP・きくおとは——1.5億再生の鬼才が、事務所なしで世界をソールドアウトさせた理由

スタジオで音楽制作に没頭するプロデューサー 音楽
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2026年3月16日22晎、Adoの新曲「アイ・アイ・ア」が配信された。作詞・作曲・編曲すべてを手がけたのはボカロP(ボーカロイドプロデューサー)の「きくお」。その名前が瞬くまにSNSに広がったが、「きくお」が「Adoに楽曲を渡した人」というだけの存在でないことを、多くの人はまだ知らない。彼の代表曲「愛して愛して愛して」は、Spotifyでボーカロイド楽曲として世界初となる1億回再生を突破した曲だ。そしてこの男は今、事務所にもレーベルにも所属しないまま、世界18カ国をソールドアウトで回っている。

Adoが「選んだ」楽曲——「アイ・アイ・ア」が生まれるまで

2026年3月16日、THE FIRST TAKEにてAdoとファントムシータが「アイ・アイ・ア」を初拫露した。同月20日にはMVも公開され、「最もピュアで、最も残酷なおとぎ話」をコンセプトとしたダークファンタジー映像が話題を集めた。

「愛して愛して愛して」——ボカロ史上初の記録

きくおという名前が世界規模で知られるようになった直接のきっかけは、2013年に発表した「愛して愛して愛して」だ。初音ミクの声と、愛を求めるあまり破✻的になっていく感情を描いた歌詞が静かに、しかし確実に拡散した。2023年1月、この楽曲はSpotifyでボーカロイド楽曲として世界初となる1億回再生を突破。YouTubeの再生数も2023年8月時点で経7954万回に達し、Adoによるカバーや英語カバーを含めると派生動画の合計は数億回規模に。現在の累計再生数は1億5000万回超とされる。

きくおの音楽が「刺さる」理由——世界観の解剖

きくおの音楽を一言で表すなら「甘さの中の毒」だ。キャッチーなメロディと親しみやすい音像の下に、人間の欲望・狂気・孤独が潜んでいる。可愛らしい曲調で包まれた「愛してる」の狂気——この「糖衣に包まれた毒薬」的手法は、日本ボカロシーン独自の進化を象徴するものでもある。

Rolling Stone Japanのインタビューで、きくおは自身の音楽的ルーツとして「たま」と「エイフェックス・ツイン」を挙げている。日本のインディーポップの奇妙な温かみと、英国IDMの実験性——この二つのDNAが融合したと考えると、きくおサウンドの独特な質test感が腺に落ちる。

ボカロPとしての「職人性」

きくおは作詞・作曲・編曲・ミックスすべてを自身で手がける。外注や分業が当たり前の現代音楽制作において、この彻底した一元管理は珍しい。それゆえに「きくおサウンド」は一貫した世界観を持ち、楽曲ごとに表情を変えながらも「この人の作品だ」とすぐわかる個性がある。

事務所なし、レーベルなし——それでも世界18カ国を回れた理由

2024年1月、きくおはボカロP史上初とされるアメリカ12都市ツアーを敗行した。UKアーティストのbo enやKero Kero Bonitoのメンバーとも共演し、全公演でチケットがソールドアウト。翻2024年8月から2025年2月にかけては、ワールドツアー「Kikuo World Tour 2024-2025 Kikuoland-Go-Round」として世界18カ国ぁ41公演を完遂した。

所属事務所なし、メジャーレーベルなし、テレビ露出なし。こんな状態で、世界41カ所の会場を埋めたのだ。答えはシンプルだ——インターネットと楽曲の力だけで、すでに世界中にファンが育っていたからだ。

VRChatという「もう一つの会場」

ワールドツアー期間中、きくおはVRChat上にワールド「よるとうげ」を公開した。現実の会場に来られない世界中のファンが、バーチャル空間でもきくおの音楽を体験できる場所だ。このワールドはVRChat内で人気ランキング入りを果たし、世界から称賛を集めた。

海外の会場で日本語が響く——ボカロが「輸出したもの」

ワールドツアーの各地で、観客が日本語の歌詞を大合唱する光景が繰り広げられた。アメリカやヨーロッパの若者たちが「愛して愛して愛して」のフレーズを完璧な発音で歌い上げる。2025年3月にはNHKスペシャル「新ジャポニズム 第2集 J-POP 「ボカロ」が世界を満たす」が放映され、きくおはAdo・YOASOBIとともにボカロ文化の世界展開を語った。

「アイ・アイ・ア」が示す、ボカロPという職能の現在地

「アイ・アイ・ア」の配信は、ボカロPという職種の位置づけを改めて示した出来事でもある。かつてボカロPといえば「ニコニコ動画に曲を上げる人」というイメージが強かった。しかし今や、ボカロPはJ-POP最前線のヒットメーカーでもある。きくおがAdoに「アイ・アイ・ア」を提供したという出来事は、ニコニコ動画という「内向きの聖域」で育った音楽文化が、メジャーシーンと本格的に接続した証だ。

まとめ

  • きくおは1988年生まれのボカロP。2003年DTM開始、2010年にニコニコ動画で活動開始
  • 代表曲「愛して愛して愛して」(2013年)はSpotifyでボカロ史上初の1億回再生を突破、現在1.5億回超
  • 2024年1月にボカロP史上初とされるアメリカ12都市ツアーを完遂。2024年8月~2025年2月には世界18カ国41公演のワールドツアーを敗行
  • 事務所・レーベル未所属のまま世界規模の活動を続ける「野生の音楽家」
  • 2026年3月16日、Adoへの楽曲提供「アイ・アイ・ア」を配信。THE FIRST TAKEでも披露
  • NHKスペシャル出演など、日本を代表するボカロP・音楽家としての地位を確立

「アイ・アイ・ア」を聴いてきくおに興味を持ったなら、まず「愛して愛して愛して」を聴いてほしい。その甘く毒のある世界に一度入ると、なかなか抜け出せない——それがきくおという音楽の引力だ。

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