2025年4月、深夜ラジオに異変が起きた。毎週月曜深夜1時、ニッポン放送のスタジオ。星野源が約6年間守り続けたこの時間帯に、新たな声が届くことになった。サカナクションのボーカル・山口一郎だ。
「オールナイトニッポン」(以下、ANN)は1967年に始まった深夜ラジオの金字塔。矢沢永吉、松任谷由実、明石家さんまが持ち回りで磨いてきたバトンを、今度は山口一郎が受け取った。このニュースを聞いたとき、ファンの間で静かな驚きと、どこか必然のような納得感が広がった——それはなぜか。
うつ病からの復帰が変えたもの
2019年12月、サカナクションは突然の活動休止を発表した。山口一郎がうつ病を発症したためだ。「音楽をやめようと思った」と後のインタビューで山口は告白している。創作の喜びが完全に消え、スタジオに入ることすら困難な時期があったという。
2023年、バンドは活動を再開した。2024年には両国国技館でのソロイベントを開催し、満員の観客の前でステージに立った。しかし山口一郎という人間は確かに変わっていた。うつ病という体験を経て、「自分の言葉で話すこと」への意識が明らかに変化した。SNSでの発信が増え、ファンとの対話を積極的に求めるようになった。ラジオというメディアを選んだのは偶然ではない。
星野源との意外な共鳴
「星野源の後継」という表現は正確だろうか。実はこの二人、音楽的なルーツは大きく異なる。星野源はソウル・ポップ寄り、山口一郎はテクノ・エレクトロニカ寄りだ。しかし深いところで共鳴している部分がある。
「病気と音楽の物語」という点だ。星野源は2012年にくも膜下出血で緊急入院し生死の境をさまよった。その経験が『Yellow Dancer』(2015年)以降の音楽を大きく変えた。山口一郎のうつ病と復帰も、彼の音楽観を静かに変えた。加えてポップとアート性の両立、言葉への信頼——両者はそこで深く重なる。
「ラジオには体温が出る」——山口一郎のラジオ愛
山口一郎は以前から、ラジオという媒体に特別な愛着を持っていた。北海道出身の彼は、インターネット以前の時代に深夜ラジオから音楽と出会ったと語っている。「ラジオには、その人の体温が出る」——音楽はプロダクションで磨けるが、話し言葉はごまかしが効かない。うつ病後の山口にとって、その「素」をさらけ出せる場所として、ラジオはこれ以上ない舞台だ。
中日ドラゴンズを愛する意外な素顔
実はサカナクションファン以外にはあまり知られていないが、山口一郎は熱狂的な中日ドラゴンズファンだ。北海道出身でありながら中日を応援し続けている。音楽的にも野球的にも「王道の外側にある美学」に惹かれる彼らしい一面だ。深夜ラジオというフォーマットは、こういった意外な素顔が飛び出す場として最も適している。
ラジオ業界への影響——若いリスナーが帰ってくる
ANNは2010年代以降、若いリスナーをSNSやYouTubeに取られ続けてきた。しかし近年、Podcastの普及が逆説的に「話し声を聴く」習慣を再び広め、radikoプレミアムで深夜ラジオアーカイブが聴かれるようになった。25〜40歳の音楽ファンから絶大な支持を受ける山口一郎の就任は、かつてラジオから離れていたリスナーを呼び戻す起爆剤になりうる。
まとめ
- 2025年4月7日より山口一郎が「オールナイトニッポン」新パーソナリティに就任
- うつ病からの復帰経験が「言葉で語ること」への意欲を高めた
- 星野源との共鳴点は病気・アート性・言葉への信頼
- 中日ドラゴンズ愛など、音楽プロモーションでは語られにくい素顔が明らかになる期待
- ラジオ文化の再評価という時代の流れと合致する就任
星野源のANNを聴いて眠れなかった夜がある人はきっとわかる——あの時間帯の特別な感覚を。山口一郎は、それを引き継ぐのではなく、自分の体温で塗り直そうとしている。4月7日の深夜1時、ラジオのスイッチを入れてみてほしい。


コメント