2003年、バンドマンの峯田和伸は「演技経験ゼロ」で一本の映画に引きずり込まれた。監督は田口トモロヲ。脚本は宮藤官九郎。映画「アイデン&ティティ」——その経験を彼は「人生を狂わされた」と表現する。あれから23年。同じ監督、同じ脚本家が、再び峯田に声をかけた。「またあの二人が何か凄いことをやろうとしている。僕もやります」——そう語る峯田の言葉には、23年分の感情が詰まっている。
2026年3月27日に全国公開された「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」は、田口トモロヲ監督・宮藤官九郎脚本・大友良英音楽という、まさに日本のエンタメ界が誇るクリエイター三者の再集結作だ。峯田和伸と若葉竜也がW主演を務め、吉岡里帆、仲野太賀、間宮祥太朗、大森南朋、中村獅童という豪華キャストが脇を固める。
「アイデン&ティティ」が残したもの——2003年という起点
まず、23年前に何があったかを振り返る必要がある。
2003年公開の「アイデン&ティティ」は、みうらじゅんの同名漫画を原作に、田口トモロヲが初めてメガホンを取った作品だ。脚本を宮藤官九郎が担当し、1970年代を舞台にロックを夢見る若者のアイデンティティの模索を描いた。主演を務めたのが、当時「演技経験ゼロ」だった銀杏BOYZのボーカル・峯田和伸だった。
中村獅童も出演しており、「アイデン&ティティ以来の久しぶりの田口組。青春時代を思い出すような時間を過ごせた」とコメントしている。つまりこの映画は、単なる作品を超えて、関わった俳優たちにとって一つの「原体験」として機能してきた。
仲野太賀は「10代の頃の自分が聞いたら卒倒するような企画」と語り、間宮祥太朗は「大好きな『アイデン&ティティ』のチームが新しく作品を撮ると聞き、なんとしても参加したいと思った」と明かす。若葉竜也に至っては「『アイデン&ティティ』という映画に出会って、こんな映画に出てみたいという想いで走ってきた」と告白している——この映画に出たくて俳優として走り続けてきたというのだ。
「ストリート・キングダム」——1978年のパンクが生んだ奇跡の実話
「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」は、フィクションではない。実話をもとにした映画だ。
舞台は1978年。ラジオから流れてきたセックス・ピストルズの楽曲に突き動かされた青年カメラマン・ユーイチ(峯田和伸)が田舎から上京。小さなロックミニコミ雑誌「ロッキンドール」と出会い、とあるライブハウスでバンドTOKAGEのボーカル・モモ(若葉竜也)のライブに衝撃を受ける。
原作は、東京ロッカーズのカメラマン兼マネージャーだった写真家・地引雄一の自伝的エッセイだ。「東京ロッカーズ」——フリクション、リザード、Mr.カイト、ミラーズ、S-KENといったバンドたちが巻き起こしたこのムーブメントは、現在私たちが当然のように使う「インディーズ」という言葉を日本に生み出した。自主レーベルの設立、着席が常識だったライブへのオールスタンディング導入、複数バンドが集う音楽フェスの開催——今のロックシーンのあらゆる「当たり前」は、この時代の革命家たちが切り開いたものだ。
宮藤官九郎はこう語る。「今では当たり前に使われる”インディーズ”という言葉が生まれた瞬間、その現場に立ち会った若者の興奮とヒリヒリを感じてもらえるよう頑張りました」
田口トモロヲもまた、「今日本はロック・フェス隆盛時代。しかしそれらの礎を築いたロッカーと仲間達の存在は知られていません。この真実の物語を伝えなくては死んでも死にきれない!」と、10年間抱え続けた情熱をぶつけた。
「あまちゃんコンビ」再集結——大友良英が加わることの意味
この映画のもう一つの注目点が、音楽を担当する大友良英の存在だ。
大友良英といえば、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)で宮藤官九郎と組み、あのオープニングテーマをはじめとする数々の楽曲で社会現象を起こした人物だ。「じぇじぇじぇ!」と並んで「あまちゃんの音楽」は2013年を象徴する文化的事件だった。宮藤×大友のタッグが、今度は1978年のパンクロックをスコアに落とし込む。
23年という時間が何を変え、何を変えなかったか
宮藤官九郎は、田口トモロヲから最初にオファーを受けた時のことをこう振り返る。「田口監督との20年ぶりの仕事に、まずワクワクしました」。2024年放送のTBSドラマ「不適切にもほどがある!」で昭和と令和を往復させ、コンプライアンス論争すら笑いに変えてみせた宮藤官九郎。その脚本家が、今度は1978年の東京を切り取る。
「アイデン&ティティ」から「ストリート・キングダム」へ——宮藤官九郎はこの関係を「孫みたいな存在です」と表現した。23年分の経験が積み重なって生まれた「孫作品」。それは老成でも回帰でもなく、進化だ。
まとめ
- 「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」は田口トモロヲ監督・宮藤官九郎脚本・大友良英音楽の23年ぶり再集結作(2026年3月27日公開)
- 1978年の東京ロッカーズが起こした実在のムーブメントを映画化。「インディーズ」という概念を日本に生み出した革命家たちの物語
- 峯田和伸と若葉竜也がW主演。「アイデン&ティティ」に憧れた若葉・仲野太賀・間宮祥太朗ら次世代俳優が集結
- 「あまちゃん」での宮藤×大友のコンビが映画音楽で再共演
- 「アイデン&ティティ」(2003年)は次世代俳優たちの目標であり続けてきた文化的存在
まだ上映中の映画館があるかもしれない。クドカンが脚本を書くとき、田口トモロヲが監督席に座るとき、峯田和伸がマイクを向けるとき——そこには音楽と映像が分かちがたく結びついた何かが生まれる。「ストリート・キングダム」は、2026年だからこそ響く、1978年の叫びだ。


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