イカゲームシーズン2に「サノス」として現れた男を覚えているだろうか。借金を抱え、ゲーム内で薬物を使用し、最後はフォークで刺されて死ぬ——そのキャラクターを演じたのが、BIGBANGのT.O.P(チェ・スンヒョン)だ。あの強烈な登場から間もなく、彼はソロ音楽活動への復帰を宣言した。13年というブランク。それがどれほど長いか、ファンなら痛いほどわかるはずだ。
13年のブランクを経て——T.O.Pのソロ活動史
T.O.Pがソロアーティストとして最後に本格的な音楽活動を行ったのは2012年頃のことだ。2010年リリースのソロアルバム『TOP』は韓国音楽チャートで上位を獲得し、収録曲「Turn It Up」はK-POP好きなら一度は耳にしたことのあるナンバーだろう。独特の低音ボイスと、絵画のような世界観を持つMVは当時大きな話題を呼んだ。
BIGBANGのメインラッパーとしても、G-DRAGONとともにグループの音楽的個性を支えてきた存在。しかし2017年、大麻使用が発覚し芸能活動が事実上ストップ。その後の兵役、YGエンターテインメントとの契約終了、そして長期にわたる沈黙が続いた。
イカゲーム2「サノス」役が再ブレイクの起爆剤に
2024年末に配信が始まったNetflixドラマ『イカゲーム』シーズン2。全世界で爆発的な視聴数を記録したこの作品で、T.O.Pはギャングのボス的キャラクター「サノス」を演じた。道徳的にも問題のある複雑な役どころだったが、彼はその存在感で画面を支配した。
イカゲームS2は配信開始から4日間でNetflixの週間視聴時間ランキング1位を記録し、全世界6800万世帯以上が視聴したとNetflixが発表。T.O.Pは一気に「世界のオーディエンス」の前に名前と顔を再び刻み込んだ。韓国内だけでなく、欧米や東南アジアのSNSでも「サノス誰?」「BIGBANGのメンバーだったの?」と話題になり、旧来のファンだけでなく新規層にもリーチすることに成功した。
日本を拠点に選んだ理由——アーティストとしての再出発
復帰の舞台として日本を選んだことも注目されている。T.O.Pはイカゲーム2の撮影前後から日本滞在が増えており、アート活動やコレクター活動を中心に精力的に動いていた。BIGBANGは日本でも圧倒的な人気を誇り、東京ドーム公演を何度も行ってきた経緯がある。その土台があるうえ、韓国のメディアや芸能界の目線から距離を置けるというメリットも大きいとみられている。
日本の音楽市場はストリーミング移行が進んでいるとはいえ、依然として物理メディアやアーティストとの「距離の近さ」を重視する文化が残っている。T.O.Pのアーティスト性——美術品コレクター、視覚芸術への造詣の深さ——は、日本のカルチャーシーンと相性がいいという見方もある。
13年で変わったもの、変わらないもの
ファンが一番気になるのは、「音楽の方向性は変わったのか」という点だろう。2010年代のT.O.Pは重厚なヒップホップとダンスミュージックを融合させたスタイルが特徴的だった。現在の彼がどんなサウンドを志向しているのかはまだ明かされていないが、本人はインタビューで「もっと自分の内面を正直に出したい」というニュアンスの発言をしているとも伝えられている。
一方で変わらないのは、その圧倒的なビジュアルと存在感だ。イカゲーム2でも証明されたように、カメラの前での佇まいは健在。音楽でもその個性がどう表現されるか、期待せずにはいられない。
BIGBANGの現状とT.O.Pの立ち位置
BIGBANGといえば、G-DRAGON、T.O.P、テヤン、デソン、スンリの5人組として2006年にデビューし、K-POPの第2世代を代表するグループだ。しかし現在は事実上の活動休止状態が続いており、スンリの引退、各メンバーの個人活動が中心となっている。G-DRAGONは2023〜2024年にかけてソロ復帰を果たし、アルバムリリースやワールドツアーで健在ぶりを示した。
T.O.Pのソロ復帰はそのG-DRAGONの動きに触発された部分もあるとみられている。ファンの間では「YGを離れたからこそ、縛られない音楽ができる」という期待の声も多い。インディペンデントなアーティストとして、あるいは新たなレーベルと組んで、どんな作品を届けてくれるか——それがいまの最大の関心事だ。
ファンが今すぐできること——T.O.Pを追いかける方法
現時点でT.O.Pの公式SNS(Instagram)は更新が続いており、アート作品や日常の断片が投稿されている。フォローしておくことで最新情報をいち早くキャッチできる。また、イカゲームS2はNetflixで現在も配信中なので、まだ見ていない人はサノス役のT.O.Pを確認しておくのが吉だ。
ソロ音楽作品のリリース時期や詳細はまだ公式発表がないが、日本でのライブやイベントの可能性も含め、今後の動向から目が離せない。13年のブランクを経て戻ってきた彼が、どんな「第2章」を描くのか——その答えはもうすぐそこまで来ている。
アート活動から見えるT.O.Pの「内側」
音楽以外の面でも、T.O.Pはその個性を発揮し続けてきた。美術品コレクターとしての顔を持ち、バスキアやヴォルフ・フォステルといった国際的なアーティストの作品を収集していることでも知られている。香港やロンドンでのオークションに積極的に参加しており、コレクションの総額は億単位ともいわれる。
自身もアート制作に携わっており、2019年にはソウルで個展を開催。絵画や映像インスタレーションを通じて、ミュージシャンとは別の表現者としての側面を見せた。こうした活動がベースにあるからこそ、次の音楽作品には単純なアイドルソングとは異なる「作家性」が宿るのではないかという期待がある。
「許す」ことと「応援する」こと——ファンの複雑な心情
T.O.Pの復帰を語るとき、2017年の薬物問題を避けて通ることはできない。当時、彼への失望を公言したファンも少なくなかった。しかし時間の経過とともに、「過去は過去、これからの活動で示してほしい」という声が増えてきているのも事実だ。
特にイカゲーム2の演技は、その変化を象徴していた。「サノス」という役は決して好感度の高いキャラクターではないが、T.O.Pはその役に誠実に向き合い、自分の経験や傷をある種の素材として昇華させたとも解釈できる。演技の中に「人間の弱さ」を描ける俳優は、往々にして自分の中に弱さを知っている人間だ。
かつての熱狂的なファンも、距離を置いていたファンも、いま一度T.O.Pという存在を見直す時機が来ているのではないか。音楽の力がそれを証明できるかどうか——今回の復帰が持つ意味は、ヒット曲を生むかどうかという次元にとどまらない。


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