「96%」という数字を見て、ピンとくる映画ファンは多いはずだ。
映画批評サイト「Rotten Tomatoes」でそのスコアを叩き出した作品が、いま静かに、しかし確実に映画界を揺らしている。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』——原作はベストセラー小説家アンディ・ウィアーの同名作品で、ライアン・ゴズリング主演、フィル・ロードとクリストファー・ミラーという『レゴ®ムービー』コンビが手がけたSF超大作だ。
洋画不況の「例外」が生まれた
近年、日本の映画市場では洋画の苦戦が続いている。2023年の興行収入ランキングを見ると、上位はほぼ邦画・アニメが独占。ハリウッド大作は軒並み苦戦を強いられてきた。そんな状況の中で公開前から異様な熱気を帯びているのが本作だ。原作小説は2021年の発売直後から「アンディ・ウィアーがまたやった」と世界中の読書家が騒ぎ、日本でも翻訳版(小野田和子訳)がSF好きの間で口コミで広まった。Filmarks(映画ログアプリ)でも4.2点という高評価を記録しており、近年の洋画では異例の数値だ。
「一人ぼっちで宇宙に取り残される」設定の妙
物語の核心は、記憶を失った状態で宇宙船の中に目覚めた科学者——ライランド・グレースの孤独な奮闘だ。太陽が謎の生命体「アストロファージ」に侵食され、人類滅亡まで数十年というタイムリミットの中、唯一の希望を探る旅が始まる。「宇宙で孤立する」という設定は、同じアンディ・ウィアー原作の映画『オデッセイ』(2015年、マット・デイモン主演)とも共鳴する。あの作品がRT91%で大ヒットしたことを考えると、本作のRT96%という評価は「期待以上」の言葉がふさわしい。SF映画史の巨人として引き合いに出される『2001年宇宙の旅』(1968年)や『メッセージ』(2016年)は、どちらも「宇宙と人間の孤独」「未知の存在との対話」を描いた。本作はそれらと一線を画す——難解さよりも「理解できる喜び」を前面に出した、科学的好奇心を刺激するエンタメとして完成しているからだ。
なぜライアン・ゴズリングでなければならなかったのか
主演のライアン・ゴズリングは、直近では『バービー』(2023年)のケン役で再注目を集めた俳優だ。コミカルな演技から繊細な心理描写まで幅広いレンジを持つ彼が、記憶を失った孤独な科学者を演じるというのは絶妙なキャスティングといえる。フィル・ロードとクリストファー・ミラーは『スパイダーマン:スパイダーバース』でプロデューサーを務め、エンタメ的完成度と批評家評価の両立にかけては随一のコンビだ。この組み合わせが、原作の「知的な驚き」と「感情的な充足感」を映像で再現することに成功した。
原作ファンが「あの展開」を恐れていた理由
原作小説は全480ページ超で、物語後半に映像化が困難とされる「あの展開」がある。多くのファンが映像化を歓迎しながらも不安を抱えていたのはその一点だ。SNSでは「原作以上の感動」「映像化成功例としてトップクラス」という声が相次いでおり、その不安は杞憂に終わったようだ。
この作品を見る前に知っておきたいこと
本作を最大限楽しむなら、事前情報は予告編程度にとどめるのが正解だ。「驚き」こそが作品の核だからだ。また「映画→原作小説」の順で楽しむのもおすすめ——映画で感じた興奮の源泉を、480ページの文字から再体験できる。洋画不況の文脈において、本作は「良質なSFは必ず観客を動かせる」ことの証明になりうる。スクリーンに映し出されるライアン・ゴズリングの表情から、目が離せないはずだ。


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