乃木坂46の歴史を振り返っても、入所からわずか50日でセンターに選ばれた例はない。2022年2月1日に5期生として加入した中西アルノは、同年3月23日発売の29thシングル「Actually…」でグループ史上最速のセンターデビューを飾った。その名前が今、あらたな場所で注目されている。テレビ東京の実写ドラマ『惡の華』だ。
押見修造が描いた「思春期の迷路」
『惡の華』は、2009年から2014年にかけて「別冊少年マガジン」に連載された押見修造の問題作だ。ボードレールの詩集から名を借りた本作は、中学生・春日高男が憧れの女子・仲村佐和に秘密を握られ、精神的に支配されていく過程を描く。2013年放送のアニメ版は実写映像をトレースする「ロトスコープ」という手法を全編に採用し、日本のテレビアニメ初の試みとして大きな話題になった。今回の実写ドラマ版では鈴木福が春日高男、「あの」が仲村佐和を演じ、中西アルノはヒロイン・常磐文(ときわ あや)を担当する。
「明るさ」を演じることの難しさ
常磐文は、春日高男が片思いする同級生だ。社交的で友人も多く、クラスに自然に溶け込んでいる女の子——原作ではある意味で「仲村佐和」とは対照的な存在として描かれている。文学への傾倒や内省的なイメージが語られることの多い中西アルノが、あえて社交的な常磐文を演じる。そのギャップと挑戦自体に、キャスティングの妙がある。アイドルとして人前に立ち続けながら、芝居の中で別の自分を作っていく——それは演技という行為の核心に近い。また、彼女はアイドル活動と平行してセーラームーン30周年記念ミュージカルにも出演。舞台で積み重ねてきた経験が、テレビドラマという媒体でどう活かされるかも注目点だ。
地上波デビューが持つ意味
配信全盛の時代においても「地上波ドラマ」には独自の広がりがある。普段乃木坂46を追っていない視聴者にも、中西アルノという名前と顔が届く機会——その意味で今回の起用は、彼女のキャリアにとって大きなターニングポイントになるかもしれない。最速センターから始まり、ミュージカル、そして地上波ドラマへ。わずか数年で積み上げてきた履歴は、「アイドル」という枠をすでにはみ出しつつある。
ドラマの放送に先立って、原作コミックを読んでみると面白い。常磐文という人物がどう描かれているかを知っておくことで、中西アルノの解釈がより鮮明に見えてくるはずだ。

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