顔を出さずホールを満員にする方法——なとり×ツミキ「セレナーデ」と全国ツアー「行進」

コンサート会場で盛り上がる観客とステージライト 音楽
Photo by Thibault Trillet on Pexels

「Overdose」が2億回再生を超えても、なとりは顔を出さない。その謎めいたスタンスのまま、彼は全国22公演のホールツアーへと踏み出した。

ネットの片隅から始まった「実験」

2021年5月、TikTokに投稿された1本のデモ音源——それがなとりの最初の一歩だった。2003年生まれの彼が音楽に目覚めたのは、ボカロカルチャーが全盛だった小学生時代。YouTubeで曲を聴き込み、「Terminal」というタイトルで自作曲を公開したとき、彼はまだ18歳だった。顔も本名も伏せたまま、メロディと歌声だけで勝負する——そのスタイルは、ネット発アーティストとしての矜持そのものだ。

「Overdose」、2億回の重力

2022年5月に投稿した「Overdose」がSNS上で静かに、しかし確実に広がっていく。正式リリースは同年9月。それから2年半後の2025年3月、ストリーミング累計2億回超えという数字を叩き出した。シティポップとR&B、ボカロの文法を縦横無尽に横断するサウンドは、「ネット音楽っぽさ」と「メインストリームっぽさ」を絶妙に両立させていた。この曲がバズったことは、なとりにとって「次の扉を開けるパスワード」だったと言える。

「推しの子」と憧れのツミキ——夢のコラボ

2026年1月放送開始の「推しの子」第3期。そのED主題歌に選ばれたのが「セレナーデ」だ。なとり自身、長年の原作ファンであり、主人公・アクアをモチーフに眠りにつく彼が幸せであるようにという祈りを込めた。

そしてこの曲の編曲を手がけたのが、「フォニイ」で知られるボカロP・ツミキ。2023年のYouTube Music Weekendでの出会いをきっかけに、NOMELON NOLEMONのライブで再会し、食事を共にするほどの関係を築いてからの実現だった。2026年2月4日のリリース後、「セレナーデ」はSNS上で大きな反響を呼んだ。

18曲、18冊——アルバム「深海」という挑戦

「セレナーデ」を収録した2ndアルバム「深海」が2026年1月21日にリリースされた。全18曲のうち新曲が10曲。初回限定盤には全18曲それぞれの楽曲解説ブックレット18冊が封入されるという異例の仕様が話題を呼んだ。「プロポーズ」「DRESSING ROOM」「IN_MY_HEAD」「SPEED」——収録曲を並べるだけで、どれだけ引き出しが多いかが伝わってくる。

顔のない行進——ホールからアジアへ

2026年、なとりは全国ツアー「行進」を敢行する。宮城からスタートし国内15都市を巡ったのち、ソウル、シンガポール、バンコク、台北の4都市にまで足を伸ばす計22公演。前年のZepp5公演からの飛躍は、数字の上でも一目瞭然だ。

顔を公開せず、プロフィールも最小限。それでも会場を埋めるだけの「楽曲の重力」を持つアーティストがここにいる。もしまだ「なとり」を聴いたことがなければ、「Overdose」か「セレナーデ」を今すぐ再生してみてほしい——何かが変わるかもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました